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ワイヤーの力が直接歯に装着したブラケットを通して歯に伝わると、歯は少しずつ動き始めます。
動き始めるには少し時間がかかりますが、一度動き始めるとあとは比較的スムーズに動いていきます。
そのとき、歯は歯を支える骨(歯槽骨)の中を移動していきます。
歯に力を加えると、押された側の骨が吸収をはじめ、そこにスペースができ、そこへ歯が移動していきます。
一方、骨と歯が引き離される側では、その隙間を埋めるようにして新しい骨ができるのです。
歯に力を加えることによって、骨の吸収と新生(新しい骨ができる)が同時に行われるわけです。
歯が少しずつ動いていき、そこに良質な骨ができて安定するまでには数週間かかります。
そのため、一度歯に力を加えると、次に力を加えるのは数週間先となります。
ムリをして早く動かそうとしても痛みが強くなりますし、歯のスムーズな移動も妨げかねません。
歯を動かすのには約1カ月かかるといわれています。
歯を適切な力で適切なスピードで動かしていくことが大切なのです。
歯が動くということは本当に不思議ですが、ずっと継続して同じ方向から力をかけていると、歯は動きます。
その証拠に小さい子どもがずっと指しゃぶりをしていると、指の当たっている歯がだんだん外側に倒れてしまいます。
また、舌の力は弱いと思うかもしれませんが、舌先でいつも決まった歯のところを押し続けていると、その歯がだんだん押されて倒れてしまったりするのです。
歯はがっちり根が生えて動かないようでいて、実は意外と簡単に動いて、かなり不安定なものということがいえます。
逆にこの性質を利用して、歯をどんどん動かして噛み合わせをきちんとしようというのが矯正治療の考え方です。
歯が動くときに大事な働きをするものが歯根膜です。
この歯根膜は歯とあごの骨(歯槽骨)とを結びつけている組織です。
歯が直接、歯槽骨に固定されているのではなく、この歯根膜があることによって、噛んだときのショックが直接響かずクッションのような働きをします。
歯根膜のもう1つの大事な働きは、噛んだときの微妙な感触や刺激を脳に伝えていることです。
いわば、圧力センサーのように働いていて、その感覚は非常に鋭敏なものです。
髪の毛1本でもあればすぐにわかるように、ミクロン単位で感知しているといわれています。
この歯根膜のセンサーの働きによって、食べ物の硬さを瞬時に感じ取り、どれくらいの力で噛めばよいかということも教えてくれるのです。
矯正治療によって歯を動かすことができるのも、この歯根膜があるおかげです。
もし、歯が直接、骨にくっついていたとしたら、歯を動かすことはできません。
実際に事故などで歯を強打して歯根膜がつぶれてしまい、歯が歯槽骨に癒着してしまった場合には、その歯を動かすことはむずかしいのです。
詳しく説明すると矯正力が歯に加わると、その加わった側の歯根膜が圧迫されます。
歯根膜の厚さがぎゅっと縮まるわけですが、歯根膜は縮まった厚さを元に戻そうとします。
そのときに圧迫された側の歯根膜には破骨細胞という骨を溶かす細胞が出現します。
この破骨細胞によって歯槽骨が少しずつですが溶かされていって歯が移動していくのです。
反対側では歯根膜は引っ張られて伸びていきます。
その伸びた分を元に戻そうとして今度はここに骨芽細胞が活発に活動を始めて骨をつくっていくのです。
歯根膜は17〜20というごく薄い膜ですが、とても大切な働きをしていることがわかります。
ブラケットとは1本1本の歯に取り着けられる装置のことをいいますが、これを歯に着けます。
1番奥の大臼歯はチューブを巻き着けます。
ブラケットはワイヤーを通すためのもので、中央にミゾ(ワイヤースロット)が掘ってあります。
このミゾにワイヤーを通します。
このミゾの切り方にさまざまな工夫がなされていて、ミゾとワイヤーとの組み合わせによって歯にかかる力の調節をしています。
ですから、ブラケットはワイヤーの力を効率よく歯に伝えるためのもので、それ自体に歯を動かす機能があるわけではありません。
それぞれの歯に合わせてブラケットの形や大きさ、ミゾの切り方などが異なります。
材質は金属のメタルブラケットのほか、目立つことを嫌う方のために、エステテイック・ブラケットというのも開発されています。
プラスチックやセラミック、コンボジットレジン、ジルコニウム、人工サファイアなどの材質でできていて、目立ちにくいというメリットがあります。
一番奥の大臼歯には金属製の帯状の環を巻き着けます。
これをチューブといいますが、このチューブにはブラケットが直接、溶接されています。
ワイヤーの素材は金属製(ニッケル・クローム合金からならステンレス・スチール製が一般的)で、弾性を持っているのが特徴です。
屈曲させると元に戻ろうします。
矯正治療ではこのワイヤーの元に戻ろうとする力を利用して歯を動かしていきます。
ワイヤーにはその断面の形によってラウンド・ワイヤー(丸い断面)、角ワイヤー(正方形の断面)の2種類があります。
角ワイヤーはブラケッ卜に切ってあるミゾにはまることで、ラウンド・ワイヤーにはない動きをさせることができます。
歯を動かす角度のことをトルクといいますが、角ワイヤーではこのトルクが生じるので、角度をつけた動かし方が可能になるのです。
径の太さもさまざまにあります。
太いワイヤーほど強い力が出せます。
ブラケットにワイヤーを通すだけでは外れやすいので、上から結紫線(けっさつせん)で結びます。
これをタイワイヤーといいます。
そのほか取り外しのできる装置を必要に応じてオプション的に使います。
コイルスプリングもその1つで、小さなバネのようなものです。
これは歯間にできたスペースを埋めるために使われます。
同じような用途のものにパワーチェンジというエラスティック(歯科用のゴム)を連結したようなものがあります。
矯正治療で抜歯をすると聞くとびっくりする方もいるでしょう。
すべての方にあてはまるわけでなく、あごのスペースが小さく、どうしても歯が並びきらないと判断された場合や口元の突出感が強く、後退させる必要がある場合には抜歯をしてスペースをつくるという方法も取られます。
その際、上下の第1小臼歯を計4本抜歯する場合が多いです。
これまでの矯正治療では抜歯するケースが圧倒的に多かったと思います。
あたり前ですが、健康な歯を上下それぞれ2本ずつ、計4本抜くということに抵抗のある方は多いでしょう。
できるだけ非抜歯で治療をしたいというのは我々、歯科医師にしても同じです。
ただ、そのためにはいくつかの条件を満たすことが必要になります。
たとえば、あごの骨の大きさと歯の大きさの関係、上あごと下あごの大きさの違いや位置関係、舌の大きさ、そしてあごの関節との調和、容貌の中で調和するかどうか等々を考慮しながら抜歯か非抜歯かを判断します。
ですからすべての患者さんに非抜歯治療が可能というわけではなく、抜歯がどうしても必要になるケースもあります。
逆に、非抜歯治療ができるのにも関わらず、すべての患者さんに対して一様に抜歯治療を行うことは医師の怠慢以外のなにものでもないでしょう。
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